「この岩の上にわたしの教会を建てよう。」

礼拝に参加する教会員が数名という日々が10年以上続いています。説教も会員が交代で奉仕しています。なぜこのような苦難の中でも礼拝を重ねているのか。半世紀以上多くの方の力で支えられてきた教会の灯を絶えさせることはできないという使命感がその支えになっているのかもしれません。でも私たちの人間の思いだけが礼拝を継続させているのではありません。イエスがこの小さな群れのに臨在し、励まし、導いているからこそ灯を守れているのです。

令和3年5月2日

礼拝説教

「この岩の上にわたしの教会を建てよう。」

春の穏やかな風が会堂を包んでします。

5月は一年で最も過ごしやすい月ではないかと思いますが、特に今年は、新型コロナ感染症の影響で外出自粛が求められているせいで、人間の営みが抑制され、例年より空気が清浄になっているように感じます。観光客の激減は、それで生計を立てている人にとっては生死にも関わるような悲惨なできごとで、早く感染症が治まり、いつもの賑わいが戻ることを私たちも共に望んでいます。ただ同時に人間の欲望に蹂躙され荒廃しつつある自然環境が、この災禍の中で息を吹き返してきたということも事実なようです。特に観光スポットとしてたくさんの人が押し寄せていた海岸や周辺の海中で海藻や魚類の繁殖が確認されたり、水質が向上しているということが報道されています。

先月のことですが、周辺の里山に春の草花の写真を撮りに通いましたが、今年は山草の花つきが良く、いたるところ絨毯をひき詰めたように咲き乱れていました。無論春の訪れが早く初夏の陽気さえ感じる気候のせいで、たくさんの種類の草花が競うように先急いで花開いたせいではあると思います。でも、いつもより花つきが多く鮮やかにさえ感じるのは、この災禍のせいで訪れる人も少なく、社会活動が抑えられているせいで空気が清浄になっていることも要因となっているように感じます。

感染症は人類の生存を左右する脅威ですが、自然環境や地球の長い営みからはすれば一瞬にも値しない刹那の出来事であり、その刹那の出来事で、傲慢になった人間の営みに警鐘を鳴らしているのだといえるように思うのです。

4月には上村静兄が1年に及ぶマルタ滞在のため出発されました。兄の旧約聖書「創世記」への深い洞察に基づいた解釈講義のような説教をしばらく聞くことができないのは残念ですが、同時に会堂に集う人数が減ることで、改めてこの教会の脆弱性を感じざるを得ないのです。この教会は今集うわずかな人数で礼拝を守っていかなければなりません。そこに付きまとう不安は東日本大震災の前年に外国から来ていた宣教師が仙台を去って以来抱いてきたものです。震災の翌年から5年間は、被災地救援のためということで、全国のキリストの教会の伝道者の方々が月一回交代で私たちの礼拝に参加され、説教奉仕をしていただきました。その後は蕨の教会から戸村兄が2月に一度お見えになり説教奉仕をなさいました、今は新型コロナウイルス感性症のためそれも途絶えています。

この教会の行く末をどう考えたら良いのか。

そう悩んでいるときに、一昨年、まだコロナの災いがなく平穏だった時代に、蕨の教会が年1回発行している文集「いぶき」に寄稿した私の文章を思い出しました。7月の中旬に発行されたので季節は夏を意識していますので5月の説教で引用するには季節感が異なりますがお聞きください。

題名は「会堂の風」と付けました。

「「風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞くが、それがどこからきて、どこへ行くかは知らない。霊から生れる者もみな、それと同じである」。（ヨハネによる福音書第3章８節）

仙台キリストの教会は仙台南西部の丘陵地にある。周辺は１９６０年代に大規模に開発された住宅団地であり、一戸建ての住宅が斜面を埋め尽くしている。斜面は南東の方角に開けており、仙台平野を一望するとともにその先には太平洋が見渡せる。むろん教会は住宅に囲まれており、会堂からその景色を望むことはできない。

しかし、その景色を肌で感じることができるのである。冷房装置の無い会堂で酷暑に苦しめらながら礼拝を行っているとき、時折感ずる風の心地良さがそれである。

太平洋から陸に吹く海風が、丘陵の斜面をのぼり、説教台の後ろで開け放たれた窓から会堂に吹き込んでくるのである。教会からは距離があるとはいえ、海の恵みを感じるときでもある。

会堂に集う私たちはその「風」のすがすがしさに、イエスを感じることができる。それは、説教の言葉と言葉の間に感じるイエスが心で見るイエスとするならば、肌で直接触れ合うことのできる「生きたイエス」と言えるかもしれない。

でもイエスは風と共に海から丘の上の会堂に登ってきたのだろうか。それは私にはわからない。御霊がどこからきてどこへ行くか誰も知らないように、ただその音を聞くことしかできないように。私たちは風に触れ、その奏でる音を聞いているだけなのだ。

でも、会堂で奏でられる風の音には確かにイエスを感じさせるのだ。それはきっと会堂にもともと臨在しているイエスを感じているのではないかと思う。海から登る風が、その風の起こす揺らめきがイエスの実在を私たちに教えているに違いないのだ。

会堂に集うものは数人にすぎないけれど、それぞれの聖霊がイエスを会堂に臨在させるのである。

海が悠久に潮の満ち引きを繰り返すように、海からの風もまた呼吸のように登り下りを繰り返す。仙台の教会が悠久に営みを繰り返すことはできないかもしれない。しかし会堂に集う人々がいる限り、聖霊が私たちにある限り、イエスが会堂に居て支えてくださることは間違いないのだ。

吹き込む風のさわやかな感触に直接イエスを感じられることを信じて、礼拝を守っていこうと思っている。

蕨の教会の皆様がともにイエスの臨在にあずかっていることを信じています。また仙台の教会への暖かい支援に心より感謝しています。」

以上です。

戸村兄の奉仕に感謝しながら「吹き込む風のさわやかな感触に直接イエスを感じられることを信じて、礼拝を守っていこうと思っている。」とある種の決意を綴りました。

教会は、集りを守ろうとする人間の意志や決意によって成り立つものではありません。神に呼ばれた者たちが、神の意志によって促される、共に集うことで成り立つものです。だから「守る」というのはふさわしくないのかもしれません。「イエスに促され、礼拝を続けていきたい。」と書くべきだったかもしれません。

マタイによる福音書16章 18節から19節にはこうあります。

「そこで、わたしもあなたに言う。あなたはペテロである。そして、わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てよう。黄泉の力もそれに打ち勝つことはない。

わたしは、あなたに天国のかぎを授けよう。そして、あなたが地上でつなぐことは、天でもつながれ、あなたが地上で解くことは天でも解かれるであろう」

教会の始まりを示す有名な箇所です。

イエスはペテロを前にして「わたしはこの岩の上に私の教会を建てよう。」と言います。

これが教会の始まりです。教会はイエスのよって建てられたのです。

その前にこのような出来事があります。

マタイによる福音書16章 1３節から17節。

「イエスがピリポ・カイザリヤの地方に行かれたとき、弟子たちに尋ねて言われた、「人々は人の子をだれと言っているか」。

彼らは言った、「ある人々はバプテスマのヨハネだと言っています。しかし、ほかの人たちは、エリヤだと言い、また、エレミヤあるいは預言者のひとりだ、と言っている者もあります」。

そこでイエスは彼らに言われた、「それでは、あなたがたはわたしをだれと言うか」。

シモン・ペテロが答えて言った、「あなたこそ、生ける神の子キリストです」。

すると、イエスは彼にむかって言われた、「バルヨナ・シモン、あなたはさいわいである。あなたにこの事をあらわしたのは、血肉ではなく、天にいますわたしの父である。」

何故教会はこの時　この場所に建てられたのか。

それはペテロがイエスのことを「あなたこそ、生ける神の子です。」と告白できたからです。

ペテロを初めイエスの弟子たちは神に召されて弟子となりました。

マタイによる福音書4章18節から20節

「さて、イエスがガリラヤの海べを歩いておられると、ふたりの兄弟、すなわち、ペテロと呼ばれたシモンとその兄弟アンデレとが、海に網を打っているのをごらんになった。彼らは漁師であった。

イエスは彼らに言われた、「わたしについてきなさい。あなたがたを、人間をとる漁師にしてあげよう」

すると、彼らはすぐに網を捨てて、イエスに従った。」

それ以来ペテロはイエスの最初の弟子としてイエスと行動を共にします。他の弟子たちも同じようにイエスに召されてイエスに従いました。

マタイによる福音書4章 23節から25節

イエスはガリラヤの全地を巡り歩いて、諸会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、民の中のあらゆる病気、あらゆるわずらいをおいやしになった。

そこで、その評判はシリヤ全地にひろまり、人々があらゆる病にかかっている者、すなわち、いろいろの病気と苦しみとに悩んでいる者、悪霊につかれている者、てんかん、中風の者などをイエスのところに連れてきたので、これらの人々をおいやしになった。

こうして、ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤ及びヨルダンの向こうから、おびただしい群衆がきてイエスに従った。

イエスは、このように多くの人々を癒しながら神の言葉を伝え続けたのです。ペテロ達はイエスとともにあり、そのようなイエスの姿を身近に見てきました。

しかし「ある人々はバプテスマのヨハネだと言っています。しかし、ほかの人たちは、エリヤだと言い、また、エレミヤあるいは預言者のひとりだ、と言っている者もあります」とあるように、世の多くの人々は、イエスのことを、預言者の一人であるとしか考えていませんでした。

イエスの癒しと宣教がなぜなされたのかその意味やイエスのその思いを理解することは難しいことでした。苦難や貧困の中にあった人々にとっては現世的な利益こそが優先され、イエスは、現世を変革する革命家のように思われていたのかもしれません。また絶望の中にあって現世ではどのような救いもありえないと考えていた人にとっては、むなしい言葉を並べるだけの虚言者でしかないと考えられていたかもしれません。また、この弟子の言葉にあるように、数々の奇跡や癒しの事実を知っていたとしても、多くの人には救世主が表れるという希望を解く語る預言者の一人だとしか思われていませんでした。

イエスは、自らが「私わたしについてきなさい」と命じた弟子たちに、そのような噂や流言が広がっている中で、あえて「それでは、あなたがたはわたしをだれと言うか」と問いかけるのです。その問いに対してペテロは「あなたこそ、生ける神の子です。」と告白するのです。ペテロは世の人々の言葉に惑わされることなくイエスの真実の姿を答えることが出来ました。

「生ける」ということはイエスが私たちと同じ生身の人間としてこの世に生まれたということを意味しているでしょう。ただ神としてこの世に現れたのではなく、神の子として。それも、それも多神教によくある異形の姿の子としてではなく、血の流れる肉体を持ち、思い悩む心を持った人間として使わされた方であると告白したのです。イエスは、このパウロの告白を聞き、弟子たちが自分がこの世に使わされた意味を弟子たちが理解することができたと確信したことでしょう。

ではなぜペテロは真実を告白できたのか。

イエスはペテロの告白を聞いてこう言います。

「バルヨナ・シモン、あなたはさいわいである。あなたにこの事をあらわしたのは、血肉ではなく、天にいますわたしの父である。」

ペテロが、イエスを「生ける神の子」であるいうことができたのは、ペテロ自身が色々知恵を回したり、思いを巡らしたりして言葉を選んだからではない。天にいる父である神が、ペテロに言わせたのだというのです。人間の意志が。イエスを生ける神の子としたのではありません。人間の心が、そうゆう幻想を生みだしたのではありません。神がこの世に自分の子であるイエスを使わし、神を信じる者に、イエスが「生ける神の子である。」という真実を示したのです。ペテロの告白は、ペテロが気づかないまま神に言わされた言葉なのです。イエスはペテロを「さいわいである」と言います。それはペテロが神の言葉を聞き、それを告白できたからです。

ペテロは、イエスに命じられてその弟子となります。それはペテロの意志ではでありません。イエスに選ばれたのです。そしてイエスと共に行動し、イエスがなす数多の癒しを見、宣教の言葉を聞きました。その途中でこの方は誰なのか、何をなそうとしているのか、人間としてさまざまな考えを抱いたかもしれません。このまま弟子でいていい良いのか、私にイエスのようなことができるのか、私はこれからどうしたらいいのかと自身の在り方についても悩んだかもしれません。しかし、ペテロはイエスに促され、神の表そうとしている言葉を口にすることができたのです。

この時、ペテロは、ただの人間だけれど、神の言葉を表すことができるイエスの本当の弟子となることができたのです。それは、これからどうしたらいいのかと自身の在り方についても悩んだことへの神からの答えでした。また、イエスを「生ける神の子」と告白することができて、イエスのこの世でなせる業の意味を知ることができたのです。これはイエスについてこの方は誰なのか、何をなそうとしているのかと抱いていた疑問を打ち消すものでした。

「そこで、わたしもあなたに言う。あなたはペテロである。そして、わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てよう。黄泉の力もそれに打ち勝つことはない」

イエスは、このペテロの告白を聞いて、その時、その場所に教会を建てるのです。その場所は岩の上でした。

マタイによる福音書7章 24節から27節にはこうあります。

｢それで、わたしのこれらの言葉を聞いて行うものを、岩の上に自分の家を建てた賢い人に比べることができよう。

雨が降り、洪水が押し寄せ、風が吹いてその家に打ちつけても、倒れることはない。岩を土台としているからである。

また、わたしのこれらの言葉を聞いても行わない者を、砂の上に自分の家を建てた愚かな人に比べることができよう。

雨が降り、洪水が押し寄せ、風が吹いてその家に打ちつけると、倒れてしまう。そしてその倒れ方はひどいのである」。

これは山上の垂訓にあるイエスの言葉です。マタイによる福音書では5章から7章に及ぶ長い説教で「こころの貧しい人たちは、さいわいである、天国は彼らのものである。」という有名な言葉から始まる説教の後半の方で述べられています。

岩の上に教会を建てるというときの岩とは、この説教にあるように「わたしのこれらの言葉を聞いて行うものを」のたとえとなっています。無論堅牢な岩の上に倒れることのない教会を立てるということが言葉通りの意味ですが、同時にイエスの言葉を聞き。それを信じ行動する者たちの上に建てるという意味もあるのです。

では岩の上に建てられた教会はどのようなものなのか。それは「わたしの教会」です。私とはむろんイエスのことですが、信じる者が集まれば教会になるわけではありません。それは岩でしかありません。イエスが「わたしの」と呼べるものでなければならないのです。それは自らの意志で集まった者の上に建つのではなく、「わたし」が支配する教会、「わたし」の所有する教会ということを示していると思います。支配するとは、所有するとは、私に呼ばれた者たち、選ばれた者たちによって建てられた教会という意味です。呼ばれたもの、選ばれたものとはどのようなものかペテロはこう述べています。

ペテロの第一の手紙1章 15節

「むしろ、あなたがたを召して下さった聖なるかたにならって、あなたがた自身も、あらゆる行いにおいて聖なる者となりなさい。」

聖なるものになりなさいということは、聖なる方、イエスに倣って生きなさいということです。ですから、教会とは神に召され、神に倣って生きるように命じられた者の集まりということです。

ではその教会は何をするために建てられたのか。

イエスはこう述べています。

「わたしは、あなたに天国のかぎを授けよう。そして、あなたが地上でつなぐことは、天でもつながれ、あなたが地上で解くことは天でも解かれるであろう」

天国のかぎを地上でつなぎ、地上で解くことがペテロの使命であると言うのです。天国へのかぎはもともと神様が持ち、私たちを天国へ導くかどうか決めるためのかぎだったと思います。イエスはそのかぎをペテロに、地上にいるペテロに授けたのです。それはペテロにこの地上において人々を天国に導く役割を果たすように命じたということです。ただそれはペテロ一人でなしえることではありません。またペテロ個人にだけに与えられた役割ではありません。地上にてかぎをつなぎ、地上でかぎを解くために、イエスは岩の上に教会を建てたのです。

ただ、天国へのかぎを地上でつなぎ、地上で解くということは、天国に行くかどうかを人間の集まりである教会が決めるということではありません。もしそのようなかぎがあるとすればそれを直接人間であるペテロに授けることはできないでしょう。人間が人間を裁くことになるからです。ここで授けるということはイエスの福音を地上に広くいきわたらせ、多くの人々を天国へと導いていくことを、ペテロと今ここで岩のうえに建てた教会に託す、任せるということ意味しているのだと思います。

ペテロをはじめとする弟子たちはイエスの死後、この「天国のかぎを地上につなぎ」というイエスの言葉を一種の遺言のように受け止め、宣教の旅に出ていきました。宣教した地には多くの教会を立て、そして苦難の旅の果て、ほとんどが殉教しました。

今私たちの教会は仙台という町の八木山という高台に建てられています。

この教会もイエスが岩の上に建てた教会です。神に召され、イエスに倣って聖なる者として生きるように命じられた者の集まりです。そしてこの教会は私たちの所有物ではありません。「わたしの所有物」すなわちイエスのもの、イエスの所有物なのです。

繰り返し述べるように、この教会にはわずかな人数しか集うことができません。いつこの礼拝の灯が消えるのか、その不安を抱えながらこの地に建っています。しかし「会堂に集う私たちはその「風」のすがすがしさに、イエスを感じることができる。」ことのできる教会です。イエスの教会を、私たちが自分たちの意志で途絶えさせることはできないのです。

風が吹く抜けることができる限り教会はこの地に建ち続けるのです。

私たちは皆、「吹き込む風のさわやかな感触に直接イエスを感じられることを信じて、イエスに促され、礼拝を続けていきたい。」のです。